【魂のルーツ】
水面が、凪いでいる様子を思い浮かべてください。
風のない湖のように、あなたの表側はいつも穏やかです。誰かと話すとき、場の空気にすっと合わせられる。
角を立てず、相手の調子を映して返せる。子供の頃から、そういうところがありませんでしたか。
たとえば教室で、誰かと誰かが言い争っているとき。あなたはどちらにもつかず、けれど両方の言い分がなんとなくわかってしまう。
そして「まあまあ」と場をなだめる側に、自然と回っていた。大人からは「落ち着いた子」と言われ、聞き分けがよく、手のかからない子だと思われていたかもしれません。
でも、ほんとうにそうだったでしょうか。
あなたの内側には、その穏やかな水面の下に、深い淵があります。水鏡の精と呼びたくなるこの魂は、表で人を映しながら、いちばん奥にあるものだけは、決して水面に上げません。
合わせているのは確かです。けれど、すべてを差し出しているわけではない。
「ここから先は渡さない」という静かな線を、幼い頃からどこかに引いていた。
それは冷たさではありません。むしろ、人をよく見ている証です。
あなたは黙って、相手の表情や言葉の裏側まで、静かに読み取っていた。理屈っぽいわけではないのに、物事の筋がすっと見える。
誰かが取りつくろっていても、なんとなくわかってしまう。そういう聡さを、騒がず内側に湛えてきたのではないでしょうか。
おそらく、子供の頃のあなたは、ひとりで過ごす時間がそれほど嫌いではなかったはずです。本を読んだり、何かをじっと観察したり、考えごとに沈んだり。
にぎやかな輪の中にいても、心のどこかは少し離れた場所から眺めていた。
その「映すけれど、奥は渡さない」という性質は、生きづらさのように感じる日もあったかもしれません。けれど、これはあなたの根っこです。
誰にでも合わせられる柔らかさと、何があっても揺るがない奥行き。その両方を、あなたは生まれたときから一緒に抱いてきた。
おっとりして見える。けれど中身は、思いのほか深い。
その奥行きが何のためにあるのか、まだはっきりとは見えていないかもしれません。